活動報告

熊本大学 大学院生命科学研究部小児科学分野 中村 公俊

教育講演1

九州地区の新規スクリーニング

熊本大学 大学院生命科学研究部
小児科学分野

中村 公俊

 タンデムマス検査が九州地区で始まり、パイロットスタディに続いて熊本地区で有料の検査として実施した時期がありました。その後、公費負担の検査として導入が決まり、それをうけてこの診療ネットワーク会議の第1回目を2013年1月に開催しました。九州地区でタンデムマス検査の診断治療のネットワークを作ることが、この会議の最初の目的でした。それと並行して、遠藤先生が厚労省の研究班を立ち上げられ、新生児スクリーニングの代謝疾患に対して診療ガイドラインをつくり、それに伴う諸問題の解決を進めてこられました。昨年度から私が研究班を担当することになり、今年の2月に第3回の班会議を開き、ガイドラインの作成、成人期の診療体制、指定難病の対象疾患の追加などについて討議しました。班会議は今年度から3年間続くことが決まりましたので、よろしくお願いします。

 先天代謝異常症のなかで、指定難病とされている疾病(群)は41あります。ライソゾーム病でひとくくり、ミトコンドリア病でひとくくり、という数え方をしているので、疾患の数としてはあまり正確ではないですが、中村班で担当することになった疾病(群)はその中でも29あり、先天代謝異常症の7割くらいを担当する非常に忙しい班になってしまいました。第3回の会議でご紹介したのですが、これまでに指定難病に指定されていない疾患がいくつかあり、特にホモシスチン尿症、VLCAD欠損症などは成人患者がいるにも関わらず、そして比較的重症で医療が必要になることが考えられるにも関わらず、まだ対象となっていません。こうした疾患については重点的に要望を出す必要があるだろうということをお話ししました。

 厚労省からは、成人の患者さんが本当にいるのか、そういう患者さんがどういった医療や負担を受けていらっしゃるのかを明確にしてくださいと言われています。いろいろな先天性代謝異常症の成人期の患者さんの症状を集めて発表することが大切なのだと考えています。この班研究では診療ガイドラインを作り、一部は「新生児マススクリーニング対象疾患等 診療ガイドライン2015」として出版しています。これを改訂し、学会承認を行い、また出版する、という作業を今後3年間で行う予定です。そして、移行期医療と成人期の診療体制を整備していきます。

 最近、厚労省からよくお尋ねがあるのが、特殊ミルクの問題です。特殊ミルクの制度は飲料メーカーの善意による部分が大きく、全体で約3億円の費用がかかる中で、2億円は飲料メーカーが負担しています。子どもの数が減り、ミルクの収入も減っていく中で、どこまで善意の提供が続くのかというのが、患者さんの治療に直結する課題として挙がってきています。そこで、どの疾患に対して特殊ミルクが必要か、他の食品で代替できるものがあるのかということを、きちんと考えていく必要があります。私どもとしては、必要なミルクはきちんとしたシステムで提供できる体制をつくっていってくださいとお願いしているところです。
 今後必要なこととして、成人期の患者さんを全員調査し、現在の状態や治療の実態を一人一人把握したいと考えています。また、先天性代謝異常症の患者を診ている小児科以外の先生を見つけ、そういった先生がどういうところで困っていらっしゃるのかを伺いたいと思っています。そのような先生をご存じでしたら、ぜひご紹介いただきたいと思います。

 後半は、新生児スクリーニングについてのお話をしたいと思います。私どものところで現行のスクリーニングに加えて、先天性代謝異常症のスクリーニングをパイロット研究としておこなっています。現在、熊本ではファブリー病、ポンぺ病のスクリーニングを行っており、去年の12月からゴーシェ病とムコ多糖症Ⅰ型、Ⅱ型についても始めています。それから、免疫不全症のスクリーニングをいま準備しているところです。さらに、低ホスファターゼ症などもスクリーニングの対象になるのかもしれないと考えております。
 現在、福岡地区でもファブリー病、ポンぺ病のスクリーニングを進めています。今年の4月から、愛知県の一部の地域でポンぺ病と免疫不全症のスクリーニングが始まりました。山口県の防府地区でも、ファブリー病とポンぺ病のスクリーニングの準備を進めています。スクリーニングを進める中で、どういった問題点があるか繰り返し検証することも必要だろうと思います。

 これは広島県で私たちと但馬先生とが共同でおこなった新生児スクリーニングで発見された、ファブリー病の患者さんです。発汗の低下と入浴時に手足の痛みがあり、酵素補充治療を始めました。治療を始めた後、痛みが消失して夏の発汗量が増加しました。この家系では、お母さんとおばあさんがファブリー病の症状を持っていることが分かり、診断がついて、酵素補充治療ができるようになりました。もう一世代前を見ると曾祖母の兄弟の方がファブリー病かもしれないと考えられる症状で早くに亡くなっていて、早期治療が必要な家系ということが分かりました。
 熊本のファブリー病新生児スクリーニングで発見されて、熊本大学でフォローしている症例では、古典型の変異を持った男の子が見つかり、5歳半くらいで痛みがでてきて、6歳の時に酵素補充治療を始めました。汗をかかない、お風呂をいやがる、と言われていたのですが、治療開始後、汗をかくようになり、QOLは改善していると考えられます。こういった症例をいつ見つければいいのかという問題がありますが、何も働きかけをせずに患者が診断されることはないというのが、今までの症例を見た中での私の考えです。診断した時に、いつごろ治療するかを提示して繰り返し説明することが、スクリーニングを進めていく上では大切だろうと思います。医療機関、先天性代謝異常症の治療をする施設、行政などによるフィードバックが、スクリーニングを進めていく上でも重要だろうと感じています。

質問:スクリーニングが増えているが、ろ紙血が不足する事態はあるのか?
回答:現在はすべての項目を検査するのに、4つあるうちの1スポットで足りていますが、確認のための再検査にはもう1スポット必要になるようです。検査の項目がさらに多くなると、4つのスポットでも足りなくなる可能性はあります。足りなくなるかもしれないという心配があると同時に、技術的なブレイクスルーが起こって、10~20年後には100の疾患が1つのスポットで足りる時代になっているかもしれないとも思っています。もう一つ大事なことは、きちんとしたろ紙血をつくることです。正確な手技によって、検査に適したろ紙血をつくることへの理解を進めていくことも大事だと思います。

活動報告一覧へ戻る▶