活動報告

佐賀大学 深尾 敏幸

教育講演3

佐賀県におけるピロリ菌の自治体検診

佐賀大学

垣内 俊彦

 昨年、佐賀県の中学3年生全員のピロリ菌検査を行い、陽性の生徒は除菌をする、という事業を始めました。佐賀県の全額公費助成です。今回の事業には「未来へ向けた胃がん対策推進事業」という名前を県知事につけていただきました。昨年1年間の結果と、今後の展望などをお話しできればと思います。
 小児科医は、がんを診る機会が非常に少ないと思います。もちろん、血液、固形腫瘍は別ですが、普通の腺がんは診療機会がほとんどないと思います。私も小児科で消化器をやっていますが、この事業を始めるにあたって、久しぶりにがん関連のデータを見ると、学生時代には、胃がんが多いというイメージがあったのですが、現在は男性では肺がんがトップで、胃がんは減っています。胃がんが減ってきているのは、やはり、ピロリ菌の除菌が保険診療で開始されたことが大きな要因だと思います。
 ピロリ菌は「ヘリコバクター・ピロリ」といって、ヘリコプターみたいに鞭毛をぐるぐる動かして移動し、胃粘膜に生息しています。これを見つけたのは、オーストラリアのマーシャル先生とウォーレン先生で、その功績によりノーベル賞を受賞されています。ご存じのように、ピロリ菌は胃潰瘍や胃がんの原因と考えられています。
 ピロリ菌と胃がんの関係をみますと、94年に既にWHOは「ピロリ菌は胃がんの原因」と認定しています。関与度合いのクラス1というのは、C型肝炎が肝臓がんの原因というのとほぼ同じリスクを表していますが、胃がんとピロリ菌もクラスⅠです。2012年には、日本のがん対策基本法も、ピロリ菌を胃がんの原因と認定していまして、2014年9月には、WHOは、「胃がんの80%はピロリ菌が原因」と報告しています。「胃がんは感染症」と考えていただいて、ほぼ間違いないものと思います。特に日本は、胃がんの原因であるピロリ菌の悪性度が非常に高いですので、報告によっては、胃がんの99%はピロリが原因だという先生もいらっしゃいます。

 ピロリ菌というのは、ヒトでは5歳までに持続感染すると言われています。大人が初感染した場合は、急性胃炎を起こして、ほぼその時にピロリ菌を排除してしまうのですが、5歳前に感染すると、免疫力の問題から、持続感染することになります。もし、持続感染を起こせば、そのまま胃炎を発症し、それから数年後には消化性潰瘍を発症し、30年、40年、50年と経過してくれば、胃粘膜が委縮をして胃がんを発症すると言われています。ピロリ菌に感染して、胃粘膜が荒れて萎縮してしまうと手遅れですね。40歳、50歳で、ピロリ菌を見つけて、すでに委縮がある胃を除菌しても、萎縮の進行、胃がん発症してしまうと考えらています。ピロリ菌に感染し、胃粘膜が萎縮する前のなるべく早い時期にピロリ菌の除菌をやってしまいたいというのが、今回の事業対象を中学生とした理由です。
 平成27年に調べた段階では、既に何箇所かの都道府県で若年者向けのピロリ菌検診が始まっていました。北海道、岡山、兵庫あたりがこの事業の先駆者です。大分県のように九州内にもあります。その中で、佐賀県が注目されているのは、都道府県単位で一斉に若年者のピロリ検診を始めたのは、本県が初めてだということが理由です。去年、札幌での小児科学会学術集会においても、既にこのような内容のシンポジウムが行われています。胃がんにおける若年者のピロリ検診、ということで、小児科学会でも取り上げられるような時代になっています。
 平成27年にヘリコバクター学会が神戸で開催されました。先ほど紹介しました小児科学会学術集会とは別ですが、既に「ピロリ菌の若年者感染対策をおこないましょう」という話が出ていました。これを拝聴し、この検診を佐賀でも是非ともおこないたいと考え、6月にヘリコバクター学会に参加して、7月16日には佐賀県に陳情に伺いました。
 佐賀は非常に小さくて特徴の少ない県ではありますが、実は小さいながらにいいところがあります。非常にコンパクトな県が故に、連携が取りやすいというのが一つの強みです。実は佐賀県は肝がんにおきまして、17年間死亡率ワーストワンで、肝炎・肝癌対策では県と大学が密に連携し対策に力を入れておりました。そのような中で、佐賀県と佐賀大学とのパイプが強く存在していましたので、その中心である佐賀大学肝疾患センター長である江口教授にお願いをして、県に一緒に陳情に行っていただきました。
 今回、胃がんに関しては、健康増進課のがん対策推進の吉原係長が担当になってくださり、この方と二人でなんとかがんばって、この事業を0から立ち上げた次第です。各方面に説明をしに行かなければならなかったのですが、行政が行った方がいい部署と、我々医療者が行った方がいい部署が区別されるだろうと考え、二人で話し合いながら、どのように話を勧めていくべきか密に相談しながら、お互いの役割分担を決めてやっていきました。

 話が変わりますが、我々も佐賀県で新生児のライソゾーム病スクリーニングを今後始めたいと思っています。その事業も、ピロリ検診と同様に行政、医師会と連携して取り組んでいかなければいけないと思っているところです。ピロリ検診の経験から判断して考えると、大学を中心とした医療者関係者、行政、医師会と連携していくべきかと思います。一つはやはり医療者です。医療者の中のコンセンサスをきちんと取っていくのが大切と思います。たとえば小児科の医者が一人で動いても、ピロリ検診であれば、消化器内科医者の協力がなければ成功しなかったわけですので、まずは、自分の周りの足元を固めるというのが大切だと思います。大学の学長、医学部長、病院長には、消化器内科、肝臓内科、小児科の教授にお願いをして、話をしてもらい、大学全体のコンセンサスを得ることができました。
 先ほども述べましたように、佐賀はいろいろな面で、非常にコンパクトですので、教授といえども、私みたいな助教の話でも聞いていただけること、普段から良好な関係を保っていましたので、非常に話がしやすかったというのがあります。消化器内科の教授は、ちょうどその時、医学部長もされていましたので、この先生にピロリ検診の話をし、「ピロリの検診、いい話だね」ということで、佐賀大学医学部として承諾頂きました。ピロリ菌の除菌は、小児科の先生は不慣れですので、消化器内科の先生方に除菌をしていただくシステムを作ったのですが、消化器内科教授が言えば、関連病院の先生方で文句を言う人はいません。その消化器内科教授が、医師会や薬剤師会の先生方と普段から良好な関係を築かれていましたので、ここも問題なく承諾いただくことができました。
 先ほども述べましたが、肝疾患センターの教授が、肝炎のことで行政との連携がとれていましたので、この点におきましても問題なく事が進みました。今回、小児科の松尾教授においても、もちろん小児科の医師への説明、納得にご尽力いただきました。私が最初にお話をして、あとはこの3人の教授陣が動いていただいたので、このような大きな事業が開始できたと思っています。
 佐賀県全県でやれた理由の一つというのが、実は知事が胃がんになられたこともあります。県に陳情に伺ったのが7月で、その年の9月に知事が胃がんになられました。もちろんピロリ菌が陽性で、早期胃がんで見つかって、内視鏡手術で治療されました。最近、このピロリ検診の話をする機会が、各地で増えているのですが、「佐賀はどうせ知事が胃がんになったからうまくいったのでしょう」とよく言われます。それを言われてしまうと元も子もないのですが、私や吉原係長があちらこちらで話をして、根回しをしていたので、知事も胃がんに罹患され、胃がんへの関心を持たれた折に、我々のピロリ検診の話が耳に入ったのだろうと理解しています。我々が各地に根っこを張っていたので、話を吸い上げていただいたと思っています。
 この会場のなかでも40歳くらいでピロリが見つかって、除菌をされた方がいらっしゃるかもしれませんが、それは実は手遅れですので、毎年、胃がん検診は受けてください。中学生くらいだと、感染して10年ぐらいしか経っていませんので、まだまだ胃粘膜がきれいです。その為、できるだけ若いときに除菌をするべきと考えています。では、小学生、中学生、高校生、どこで除菌するのかという話になりますが、大きな問題として、除菌薬の副反応の問題があります。今回の事業は、保険診療ではありませんので、症状のない元気な子に対して、尿検査して、便検査して、ピロリ菌の検査をするのですが、「君、感染しているのだから薬飲みなさい」となった時に、たとえば副反応が出たら非常に大変です。また、ピロリ菌の除菌薬は、保険診療では15歳以上からとなっています。そのようなことで、体格的にも成人に近い中学生か高校生くらいがいいだろうと考えました。ですが、高校生は、既に胃がんを発症してくる子が出てきます。スキルス胃がんという非常に進行の早い胃がんが発症してきますので、高校生では、佐賀県の考えとしては遅いと考えました。あとは、除菌になると、特に内科の先生は、子どもの体重に合わせて薬を出すということに非常に抵抗を感じられます。我々、小児科医は粉薬を体重に合わせて処方するのが得意ですが、内科の先生方は、何錠とか何カプセルで処方したいと言われます。小学生では、体格的に個人差が大きく、成人のように画一的な治療薬量が使用しにくいとの問題が出てきます。そこで、今回、佐賀県は中学3年生を対象にすることで、体格的にほぼ成人と同様の治療薬量で除菌できるようにしました。

 実際の事業の運営ですが、佐賀大学の中に、県の予算で事業センターを立ち上げました。事務員はただ2人で、医者は誰もいません。私がボランティアでやっているだけです。人件費としては、事務員2名のみでおこなっている事業です。今回、事業実施する上で重視したことは二つありました。一つは、「感染症は差別につながる可能性がある」ということです。これは教育委員会からも強く言われたことで、この点は大変気をつけました。もう一つは、「現場の仕事を増やさない」ということです。これも教育委員会から強く言われましたので、学校現場の負担をいかに最小限にするかを考えました。
 我々がやっている事業内容を詳細に説明します。毎年春に実施されます学校検尿において、その学校検尿の残りの尿で、ピロリ菌の検査をすることにしました。便を採取するとか血液検査をするとなると、学校検診に対してプラスアルファの検査になりますので、おそらく参加率が悪くなるだろうと考えました。また、現場の仕事量が増え負担が増します。学校検尿は、殆どの生徒が提出しますので、その残りの尿を使ってピロリ菌の尿中抗体検査をしています。学校の先生が関与してもらうのは、生徒に同意書を渡して、その同意書を回収してもらい、検尿検査をおこなう検査センターにピロリ検診の同意書を渡してもらうだけにしました。学校現場の先生方の仕事を増やすなと言われましたけれども、そんなに仕事を増やしていません、という話をいつもしています。
 事業センターに、学校検尿の残りを検査したピロリ菌の検査結果が届きます。尿中抗体検査が陰性であれば、その生徒はピロリに感染していません、ということで終了となります。尿中抗体が陽性であれば、今度は、尿だけでは検査精度が高くはありませんので、二次検査として、事業センターから直接生徒宅に便中抗原検査キットを郵送します。これは便中ピロリ菌抗原検査のための検査キットです。それを用いて、生徒が自分の家で便を採取し、事業センターに送り返してもらいます。便が陰性であれば感染していません、ということになりますし、尿中抗体も陽性、便中抗原も陽性であればピロリ菌に感染していることになります。この生徒たちは、佐賀県内の医療機関に行って、除菌をしていただきます。除菌をした後に、その医療機関で、除菌判定までおこなっていただくというシステムを構築しました。本来であれば、2万円から病院によっては5万円ぐらい費用がかかる内容を、佐賀県からの全額公費負担で、全て無料でおこなっています。
 最初、佐賀県内において、学校検尿がどのようにおこなわれているのかすら、私は全く分かりませんでした。検査センターに尿が運ばれ、検査技師により尿検査がおこなわれている地区、薬剤師の先生が学校に出向いて、テステープで学校の中で検査されている地区の2つのパターンがありました。本来は、ELISA法で一斉に検査センターで検査するほうが、簡単で費用面も有効率がいいのですが、後者の地区では、それができませんので、いわゆるテステープみたいなイムノクロマトグラフィー法を使って尿中のピロリ抗体検査をするようにしています。
 次に、尿だけでは確実ではありませんので、便の検査をします。便を採取して、事業センターに送っていただくのですが、その実施スキームを確立するなかで、次から次に問題が出てきました。一例を挙げますと、ピロリ菌の便中抗原検査キットは、温度が25度を超えると検査精度が落ちることが言われています。佐賀県の平均気温は、夏場は25度を優に超えてしまいます。生徒が自分の家で便を取って、このキットを事業センターに郵送するために、夏場に屋外のポストに入れてしまうと、温度が25度を超えてしまいます。そこで、解決策として、宅配会社のクール便を使うことになりました。もっと簡単な郵送手段を取れば、費用がかからずに済むのですが、便検査の精度管理の面から考えると、やはりお金がかかってもクール便を採用しないわけにはいきません。また、個人の一般家庭から便検体を郵送する事は宅配業務の規約上できないことも分かりましたので、宅配会社と特例契約を結ぶことも必要でした。
 ピロリ菌感染が分かった生徒さんたちは、佐賀県内の除菌医療機関に行って、無料で除菌をしていただくというシステムを作っています。小児科の先生だけで除菌してくださる病院はほとんどなく、ほとんどは内科の先生にお願いしています。
 どれくらいコストがかかって、どれくらい利益があるのかと言われますが、この事業で、佐賀県内すべてで年間300人くらいピロリ菌感染者が出ます。そのうちの10%くらいが胃がんになるだろうと言われていますので、今回の予算を30人くらいで割ると胃がん発生1人抑制のために30万円程度の予算がかかる計算になります。実は、この計算には、人件費などを入れていませんので、事業予算総額で計算するともう少し高いです。胃がん死亡で考えると、胃がん死亡者を一人予防するのに1人75万円くらいの料金がかかってきます。参考に、腹腔鏡下胃全摘出手術の医科点数表では、83万円程になりますので、そう考えれば今回我々がやっていることは、予算的にも有意義であると思っています。

 昨年1年間の結果を提示します。佐賀県は小さい県ですので、中学3年生が県内すべて合わせて8,900人しかいません。今回、ピロリ検診での検査に同意をしていただいたのがそのうちの78%で、6,994人が検査を受けました。これはあくまでも任意の検査ですので、実際尿を出してくれたのが6,953人で、学校検尿を受けない人も41人くらいいます。一次の尿検査の結果、陽性であった生徒が399人でした。そのうち、334人が便検査を受けていただき、248人が陽性でした。よって、平成28年度の佐賀県の中学3年生のピロリ菌感染率は3.6%になります。その子たちが今除菌に行っていますので、結果がまだすべて出ていませんが、除菌成功率も非常にいい数字です。一次除菌で失敗しても二次除菌があり、二次除菌は現時点では100%除菌成功しています。検査を受けて除菌までしていただければ、ほぼ全員の生徒で除菌に成功するだろうと考えています。本事業を継続していけば、将来的には胃がん撲滅も可能だろうと考えています。
 本事業での感染率をみると、佐賀県庁から距離が離れれば離れるほど、ピロリ菌の感染率が上がる傾向がありました。統計学的にも、佐賀県庁から離れている市・町ほど感染率が高いというデータが出て、距離と感染率に弱いながら相関がありました。水道普及率とピロリ感染率の相関性がよく言われますが、ちょうど今の中学3年生の親世代である昭和48年の佐賀県内の水道普及率と、最新のデータである平成26年度の水道普及率との相関性を計算しましたが、こちらは全く相関がありませんでした。

 今後の展望です。我々は、将来の胃がんを予防したいということを目標にがんばっているところです。胃がんをどう撲滅していくかについては、三つの世代に分けて考えたほうがいいかと思っています。若年者、中高年、後期高齢者です。中高年はバリウム検査や内視鏡の胃がん検診が行われています。後期高齢者は75歳以上の方ですが、ピロリ菌がいても、年齢的に今さら除菌しても意味があるのかという話になります。
 今回の我々の事業は、若年者に対する対策です。40年後、50年後の胃がんをきちんと予防したいというのが一つあります。現在、ピロリ菌はほぼ80%が家族内感染と言われていますので、現在中学生である女の子、男の子たちが、将来自分の子ども達に、ピロリ菌をうつさないようにするという点も考えています。あとは未分化型胃がんです。スキルス胃がんは、早い人は20歳代前半でも発症してきます。「どうせあなたたちがやっていることは、40年、50年しないと結果が出ないでしょう。」と言われる方がおられますが、実はそのようなことはなく、未分化型胃がんが5年後には佐賀県では減っていくだろうと考えています。将来的には、一般的な分化型胃がんのみならず、未分化型胃がんも予防できるだろうと考えています。
 現在の佐賀県中学3年生のピロリ菌感染率は3%程度です。「たかが3%の人のために何やっているの」とも言われますが、除菌薬と除菌判定検査に一番費用がかかりますので、感染率3%くらいが予算的にも検診としては費用対効果がいいだろうと思います。
 今後の大きな課題ですが、若年時に、ピロリ除菌やピロリ菌の検査をした子どもたちを、将来、今のままの胃がん検診につないでいくのか、どうつなぐかというのが大きな課題です。この点に関しては、現時点では誰も答えを持っていませんので、今後、いろいろな研究会を立ち上げて考えていきたいと思っています。
 本事業は、小児科が主体となって実施していますので、小児の問題とピロリ菌の関連を調べるための臨床研究を可能な範囲でおこなっています。発達障害児とピロリ菌との関連を調べる研究なども今やっています。ちなみに、これは理由がはっきり分かりませんが、佐賀県全体での感染率は3.6%でしたが、データをいろいろ取ると、発達障害のお子さんはピロリの感染率が3倍くらいであるデータが出てきています。これが何を意味しているかは今後、私も気にかけていきたいと思っています。

 最後になりますが、佐賀県は長崎と福岡に挟まれて、ちょっと立場の弱い、どうしても我々佐賀県民はあまり自分の県を誇りに思っていない部分があります。ピロリ菌の検査を去年の4月から始めたのですが、その年の正月に佐賀県の山口知事がテレビで、「佐賀に生まれたことを誇りに思える県にしたい」とおっしゃっていました。私のところに去年、除菌に来てくれたお母さんが、「ピロリの除菌ができて、佐賀に生まれてよかった」とおっしゃっていました。「佐賀に生まれてよかった」といった感謝の言葉を聞くのは初めてでしたので、これを聞いて、佐賀県から費用を出していただき、このような事業をやらせていただいて、多少なりとも地域に恩返しができたかなと思っています。また、最近、「育児助成金白書」という団体から表彰していただきました。もちろん他の地区で先行してやられていたところがあるのですが、行政、医師会、消化器内科と小児科とで、コンパクトに、みんなでまとまってやったということで、このように評価していただいているのかなと思います。

 まとめになりますが、多方面に協力者を得ることができたこと、行政が主体となることで財政面での十分なバックアップがあり様々な施策が行えたことで、全国初の県単位での実施が可能になったと思います。また、事業内容に関しまして、たくさんご意見をいただきまして、そのことが事業スキームの改善にもつながりました。今後も、より多くの生徒たちにこの検診を受けてもらい、地域住民の健康増進に寄与していきたいと思います。あとは、この若年者のピロリ検診の安全性や有効性を確立していくためにも、佐賀県から多くのエビデンスを発信していきたいと思っています。
 多くの方に協力をいただいて、今年も2年目の事業が始まっています。本事業は、現在の佐賀県知事の肝いり事業と言われており継続していきたいと思っていますし、おそらく続けていけるだろうと思っています。皆さまにもなにか一つ、ご参考になればと思っています。どうもありがとうございました。

質問:ピロリの陽性率はもっと高いと思っていたのですが、高齢者や二十歳ぐらいの方の陽性率に比べて、3パーセント程というのはかなり低いと感じるのですが、その後、また陽性になる人が出てくる可能性もあるのでしょうか。それは、最初にお話しされたとおり、ここで陽性になる人は相手にしなくていい、ということでしょうか。
回答:おそらく先生と私の世代だと3%どころではなくて、おそらく20%とか、もうちょっと上の世代だと40%くらい陽性の方がいらっしゃると思います。年齢差があります。今回、15歳で3.6%ですが、再感染率は0.2から2%くらいだと言われていますので、かなり少ないです。再感染者は再度除菌しないといけないです。再感染者をどう拾い上げるかは難しく、その0.2から2%の再感染者を見つけるために、どれくらい費用を使うかという議論になると思います。現時点では、一度ピロリ菌を除菌したから解決ではなくて、何かの機会があればピロリ菌感染の検査を受けてください、胃がん検診は受けてください、と言わざるを得ないです。

質問:ピロリ検査の時期ですが、他の地域でされている場合は、同じような時期にされているのでしょうか。
回答:だいたい中学2年生が多いですね。中学3年生だと受験があるので。あとは、高校生は行政単位になると、高校生は県外に行っている子もいますし、高校に行かない子も出てくるので。そういう意味では、中学生くらいでやっているところが多いと思います。

質問:小児の場合、家族感染が多いということですが、二次感染予防で、親の世代、大人の除菌を進めると、乳幼児の感染率は下がるのでしょうか。
回答:上の世代の人たちを一定期間除菌すると下の世代の感染を予防したというデータはございません。子どもさんのピロリ菌の遺伝子型と親ごさんやおばあちゃん、同居している人たちのピロリ菌の遺伝子型が一緒だという証明しかされていません。

質問:最初に尿で調べた時に陰性であれば、今はそれでオープンになっていますけれども、見逃し例というのはどの程度あるのかと気になったのですが。
回答:大規模なデータはなく、今回、我々は尿で陰性の人たちには何もフォローしていないのですが、翌年にもう一回ピロリの尿検査を実施している地区もあります。佐賀県は対象数が多すぎるので、初年度陰性だった生徒に、翌年再度検査をするとなると財政面や事務的な煩雑さから難しい状況です。陰性の中に何%くらいの陽性がいるかというのは、各地区では少しデータがあり、ちょっとばらつきがあります。尿検査精度に影響する要因で一番言われているのは、血尿やタンパク尿がある時にピロリ菌の検査をすると、陰性になることがあります。ですから、特に中学生の女のお子さまで、たとえば生理中の検査になると間違いなくピロリ菌は陰性で出てきます。ここが教育委員会との問題ですが、「ピロリ菌検査を受けた生徒の血尿とかタンパク尿、糖尿など尿のデータを一緒にください」と頼んだのですが、個人情報の問題からピロリ菌以外のデータの提供はできないということで、ピロリ菌のデータだけで判断しないといけない状況です。

質問:県庁から離れていると感染率が上がるというのは?
回答:おそらく環境要因との関係と思われます。3世代同居率が田舎になればなるほど上がる、年代的にピロリ感染率が高いおばあちゃんやおじいちゃんから家族内感染する機会に晒されやすい、井戸水使用の地区が比較的地方に多い、などが影響している可能性が考えられます。あとは口移しですね、今、むし歯予防の観点から口移しで食べさせないようにされていると思いますが、田舎ではまだ口移しをされていることがあります。本来は、アンケート調査などを同時におこないたいのですが、そこからピロリ菌感染の家族歴とか家族の背景を知りたいのですが、教育委員会からは許可がもらえませんので、残念ながら背景などは把握できていません。

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